human health care

事例紹介現場の悩みの声から服薬支援機器を開発

エーザイ株式会社 hhcソリューション本部

2018年8月 弊社内にて取材

在宅訪問診療の同行時に、認知症の人の服薬の課題に直面

エーザイでは、企業理念であるhhc(ヒューマン・ヘルスケア)の実現に向けて、患者様やご家族、医療関係者の想いや課題を理解するためのプログラムを実施しています。すべての社員が就業時間の1%を患者様と共に過ごすことが推奨されており、服薬支援機器「eお薬さん」の開発につながったのも、そうした医療や療養の現場を自身で体感する活動における「気づき」からでした。
開発担当者であるhhcソリューション本部の辻本道彦氏は、当時2009年に発足したCJ部(Customer Joy:顧客歓喜)に所属。患者様やご家族の潜在的ニーズの充足による顧客歓喜の創出を目指した活動を開始していました。テーマは、「医療安全」と「在宅患者様のQOL向上」。その実践方法を探るため、医療機関や在宅の現場を積極的に訪問していました。そんなある日、医師と患者様宅に同行した際の経験が、服薬支援機器eお薬さんの開発の原点になりました。
「独居の認知症患者様は服薬したことを忘れて過量に服用するリスクがあるため、抗認知症薬の処方を中止している」。その医師がふと漏らした一言が衝撃的だったと振り返ります。どんなに良い薬を開発・販売しても、患者様に安全に服用いただくことができなければ、最終的に患者様のTrue Needsの充足を実現することはできないことに改めて気づかされた体験だったといいます。
また、その後の高齢者施設への訪問では、薬を自己管理したい入所者と、安全に管理したいスタッフとの葛藤も目の当たりにしました。さらに、服薬の実態が把握できないまま用量が増え、副作用が発現した事例にも接し、服薬アセスメントの重要性を再認識したと辻本氏は話します。患者様の疾患の状態はさまざまであり、ご自身での服薬管理が困難な場合がどうしても存在します。療養の現場で生じている過量服用や飲み忘れの実態を知り、服薬管理の支援と見守りの機能を併せ持つ服薬支援ソリューションの必要性にたどり着いたと言います。


誰でも「適切に安全な服薬」の実現に、服薬支援機器を開発

服薬アドヒアランスにとって重要になるのが、決められた薬を決められた分量で、決められた時間に服用していただくことです。そして療養現場の体験からは、患者様の自立の意思を尊重しながら拒否感を抱かせずに服薬のサポートを利用してもらう方策が不可欠と考えられました。そこで立案したのがIoTを活用した服薬支援機器です。在宅療養の現場には、病院から在宅への医療の流れや薬剤師による在宅訪問、医療・介護職による多職種連携などがあり、ご家族の見守りニーズもあります。そうした見守りや連携を実現する観点から、機器には過量服用や飲み忘れ防止などの服薬支援機能を持たせるととともに、クラウドとの通信により緩やかな見守りに資する機能を付加することとしました。
機器の新規性としては、IoT化してクラウドと連携機能を取り入れたことがあります。これにより、ご利用者がお薬ケースを取り出した、もしくは取り出さなかったという情報をクラウド経由でリアルタイムにご家族や医療・介護職にメール配信し、適宜適切な対応がはかれます。また、クラウドに蓄積された記録を確認することで、ご利用者の生活リズムを可視化することが可能になります。
開発には先述のCJ部にて、テーマ創出のミッションを受けた企画推進室があたりました。そこで既存の服薬支援機器を用いた調査を行うとともに、IoTによる情報連携機能の開発に向け社外関係者の協力を得て設計を行いました。
「医薬品の製造販売を生業とする当社が、電子機器を開発することについて社内の理解を得ること、また電子機器やクラウド開発の経験やノウハウがなく技術面での協力者がいないことも大変でした。ゼロからの開発だったと言えますが、それでも服薬支援機器は在宅の現場で必要とされるツールであることを実体験として認識していましたし、多くの方々もその必要性に理解を深めてくださり、製品として完成することができました」(辻本氏)
現場での実態調査とデモ機での実証を重ね、8年の開発期間を経てeお薬さんの発売の日を迎えることができました。


「eお薬さん」の活用で実現されてきた成果と今後の課題

2017年1月の発売から2年が経過し、認知症の人を介護するご家族が、忙しい中で時間通りに服薬してもらうプレッシャーから開放されたという事例や、薬を服用されているご本人がお薬の時間を楽しみにするようになった、あるいは生活が規則正しくなったといった事例が報告されています。
さらに、用法用量どおりに服薬することで病態が安定し、例えば高血圧症や糖尿病の患者様が服用される薬剤の数が減る、あるいは用量が減量されるといった事例も出てきています。
また、ITを活用した見守り機能については、離れて暮らす娘さんが服薬時間のグラフを確認していたところ、それまで朝昼晩寝る前と規則正しく服用していた患者様の服薬リズムが大きく乱れてきたため、医療機関を受診させたという事例もあったといいます。
「eお薬さんは、これまでの療養生活の現場には馴染みのない新しい機器であり、具体的にどのような方にどのように導入していけばよいのか医療関係者も戸惑っていらっしゃるという現状がまだあります。まずは機器について多くの方に知ってもらい、eお薬さんがお役にたてる方々に届けていきたい」(辻本氏)
機器の活用は、高齢の方や療養中の方の自宅だけでなく、病院や高齢者施設にも広がり始めていると言います。機器を適切に使用してもらうためにも、現在は保険薬局の薬剤師や病院、高齢者施設の看護師など、専門職のサポートを前提に機器を提供する体制をとっています。
「機器はあくまでツールであり、これがあれば必ず服薬管理の向上につながるというものではありません。在宅療養されている患者様の周りには治療と生活を支えるさまざまな専門職の方が活躍されていらっしゃいます。そうした多職種チームの活動をサポートする一つのツールとして服薬支援機器を活用していただければと願っています」(辻本氏)
服薬支援機能の充実に向け、服薬情報のインターネットを介した共有機能や服薬記録の表示機能のソフトウェアの改善も随時実施中です。「適切に薬を飲んでいただくことは、療養の現場に入り、現実を知れば知るほど簡単なことでないことと、痛感させられます。この機器が少しでもそうした現場の役に立てばと願っています。皆さま方のフィードバックも反映しながら、適切な服薬の支援を通じて療養環境の改善につながるより良い機器に作り上げて行きたい」と辻本氏は機器の今後への期待を話してくれました。

※見守り支援機能を搭載した服薬支援機器「eお薬さん」
製品に関する詳細は、eお薬さんのサイトをご覧ください。
「eお薬さん」は医療機器ではありません。